第15回 タマネギ中毒
滝田雄磨 獣医師
-
犬にタマネギを食べさせてはいけない。
飼い主の健康志向の向上により、
タマネギ中毒の認知度は飛躍的に高くなりました。
しかし、来院数は減ったものの
タマネギ中毒の患者さんは時々いらっしゃいます。
今回は犬のタマネギ中毒について、あらためて注意喚起したいと思います。
-
タマネギをどれくらい食べたら犬に中毒症状が出るのでしょうか。
実は、明確な量は決まっていません。犬により感受性が異なります。
タマネギを多く食べても全く症状が出ない犬がいる一方、
肉じゃがの煮汁を舐めただけで症状を出したという犬もいます。
つまり、タマネギの成分を少しでも口にしたら、
タマネギ中毒を警戒しなくてはならないのです。
-
犬のタマネギ中毒を注意するときに、
同時に注意したいのが、ネギ類です。
タマネギのほか、ネギ、ニラ、ニンニクなどがネギ類に含まれます。
これらは私達にとって、とても身近な植物です。
これらの成分が含まれている調味料が多いことにも注意してください。
焼肉のタレを舐めただけでも、
そこに含まれるタマネギやニンニクの成分で中毒になる可能性があります。
犬がタマネギを食べてしまった場合、実際には何が起こるのでしょうか。
タマネギに含まれる成分が体内で代謝され、赤血球に酸化性の障害を与えます。
酸化された赤血球は、その構造が変化します。
構造が変化した赤血球は脆くなり、赤血球の寿命が短くなります。
すると、赤血球が壊れて少なくなり、貧血を引き起こします。
見た目に現れる症状には以下のようなものがあります。
-
・元気、食欲の低下
・心拍数、呼吸数の上昇
・粘膜色の異常(白〜黄)
・血尿
血尿は赤い尿です。
しかし、犬のタマネギ中毒の場合、
尿路のどこかで出血しているわけではありません。
-
体内で赤血球が壊れる際に、ヘモグロビンという成分が流出します。
このヘモグロビンは赤い色をしています。
本来、腎臓で血液から尿が生成されるとき、
ヘモグロビンは血液の中に再吸収されます。
しかし、その再吸収の量にも限界があります。
再吸収の限界を超える量のヘモグロビンがあった場合、
再吸収しきれなかったヘモグロビンは尿中へと流出します。
この尿をヘモグロビン尿といい、赤〜茶色をしています。
犬のタマネギ中毒の症状は、食べてからすぐに現れるとは限りません。
体内で代謝された後、徐々に赤血球が壊れていくため、
ほとんどの場合は食べてから症状が出るまで時間が空きます。
その日のうちに現れることもあれば、数日後に現れることもあります。
タマネギを食べてしまったあと、愛犬が元気だからといって油断は禁物です。
タマネギ中毒になりうる物を食べてしまった場合、
たとえ犬が元気であっても動物病院で診察を受けるようにしましょう。
ほとんどの犬は、タマネギを食べた直後は元気ですが、
重症になると数日後に命を落とす恐れもあります。
では、動物病院ではどういった治療が受けられるのでしょう。
-
①催吐処置
食べてしまった物を、吐き戻させます。
食べてからの経過が2〜3時間であるときに選択される方法です。
吐き戻しを起こさせる薬を、注射や経口で投与します。
吐き戻すまでしばらく時間がかかることもあります。
②吸着剤 有害な成分を、消化管内で吸着させ、排泄を促します
人間でも使われている活性炭素剤を、経口で投与します。
-
③抗酸化剤
ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質を投与します。
タマネギ中毒は赤血球を酸化させることによる障害であるため、
これを抑制することができます。
-
④点滴
補液をすることで、吸収されてしまった有害物質の排泄を促します。
背中の皮下に注射する皮下点滴と、
人間のように静脈内に持続的に注入する静脈内点滴とがあります。
重度の中毒症状を示している場合は、
脱水の補正、腎機能の補助などをするため、
静脈からしっかりと点滴します。
⑤輸血
1〜4の治療をしたにも関わらず、
症状が進行し、著しい貧血が認められた場合は輸血をします。
中毒症状の大きさにより治療法が変わりますが、
多くの場合は1〜4の治療が行われます。
治療反応が良いことが多く、輸血が必要なケースは比較的まれです。
-
犬のタマネギ中毒の感受性は個体差が大きく、
少量でも重症化することがあります。
しかし、食べてしまってからすぐに治療をすれば、
比較的予後は良好です。
ただし、治療反応がよくても油断は禁物です。
タマネギ中毒は食べてしまってから
症状のピークまでが数日間あるため、
何日か通院して全身状態をチェックしてもらう必要があります。
治療開始後も、数日間はしっかりと犬の様子を観察しましょう。
代表的なものとして、タマネギ中毒を紹介しました。
しかし、身近なものには中毒を起こすものはたくさんあります。
残念ながら犬猫はそれが毒であることが分かりません。
中毒物質を摂取してしまった場合、そうなり得る環境にあったことが問題となります。
中毒物質を意識し、安全な環境をつくれるよう心がけましょう。