第3回 認知症
滝田雄磨 獣医師
犬や猫たちも年をとる
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元気に走り回る犬猫たち。
その無邪気さは、私たちに和やかな癒やしを与えてくれます。
その無邪気さゆえ、いつまでも子供みたいに思えるものです。
しかし、そんな彼らも、やはり少しずつ年をとっています。
残念ながら、我々よりもはるかに速いスピードで。
小型犬、大型犬、ネコちゃんで若干の違いはあるものの、
その年令はざっくり「その年に4を足してから4倍」という
計算でなされます。
7才であれば、4足して１１、それを４倍して４４才、
といった具合です。
すなわち、我々の約４倍のスピードで年をとると
考えなくてはなりません。
年をとってくると様々な病気を発症するようになります。 -
認知症
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老化が進んできたときに直面する病気、日々のケアが大変な病気として、痴呆、認知症があげられます。
今回は痴呆、認知症について紹介していきます。
我々人間の病気としても身近な病気。認知症。
医療の進歩により、高齢化社会を超え、超高齢社会に入った日本。
高齢者が増えるほど、認知症は身近な病気となっていきます。
症状はゆっくりと進行し、本人もふくめ、まわりにも気づかれにくい病気です。
したがって、まわりの人とともに病気と理解し、治療やケアをすることが大切です。
犬猫社会でも、獣医医療の進歩により犬猫社会の高齢化はどんどん進んでいます。
それに伴い、犬猫社会でも認知症は身近なものとなってきているのです。
そして人間社会と同様、病気と理解し、治療やケアをしてあげることが大切です。
うちの子が言うとおりにできなくなってしまった。
改めてしつけなくてはと叱ってしまう飼い主様がいらっしゃいます。
しかし、それがもし認知症だったら・・・
叱ることは絶対に避けたいところです。
認知症ってどんな病気？
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獣医は犬猫の認知症について、認知機能不全と呼びます。
難しい言葉でいうと、加齢にともなう脳の退行性変化による
進行性の認知能力低下を原因とした、行動変化の総称・・・
つまり、年をとり、いつもと違う行動をするようになった。
原因は脳の老化である。といった感じです。
では、どういった行動の変化があるのでしょう。 -
徴候
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よく言われている認識機能不全の徴候として
○見当識障害 (Disorientation)
自分が置かれている環境を認識する能力です。 慣れている道で迷ってしまったり、混乱してしまったりします。
○社会的相互反応の変化
(Socia-enviromental Interaction)
なでられることへの興味の低下、コマンドへの反応の低下、
攻撃性の増加などが含まれます。
人間では対人関係や社会的孤立、外界への不信感などがみられます。
○睡眠あるいは行動の変化 (Sleep-wake cycle)
昼夜逆転、夜中の徘徊運動などがみられます。
○家庭でのしつけを忘れる (Housetraining forgotten)
排泄に関するそそうなど、
幼いころから当たり前にできていたしつけができなくなることです。
○活動量の変化 (Change in Action)
活動性の低下や、食欲の減退もしくは増加がみられます。
があります。
これらの英語の頭文字をとって、DISHAの５徴候と呼ばれています。
認知機能不全は、これらの徴候すべてが認められることではありません。
上記のうち一つでも該当することがあれば、
認知機能不全を疑い、対処する必要があります。 -
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具体的な例をあげてみましょう。
オーストラリアの獣医師、Salvin先生らによると、認知機能不全を疑う際、
チェックする行動変化の一部として下記のようなものがあります。
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・壁や床をぼんやりと見続ける
・なじみのある人や動物に対する認識が変化する
・ものや家具の後ろで動けなくなる
・壁や家具に向かって歩き続ける
・外に出ようとするとき、ドアの蝶番側に行く
・水入れのところで立ち止まっている
・不適切な排泄の頻度が増加する
・落としたフードを探すのが難しい
・夜間に頻繁にうろつきまわる
・なでられたり触られたりするのを避ける
・新しい行動を覚えるのに時間がかかる
・何もないまたは理由がわからない吠え
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やはり、上記の項目がひとつでも認められたら、注意深い観察が必要です。
他の病気との鑑別
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認知機能不全は、あくまで脳の老化によって起こるものです。
したがって、前述したような行動があった場合でも、
他の病気が原因であった場合には認知機能不全ではありません。
甲状腺疾患などの内分泌疾患、整形学的疾患、循環器疾患・・・
様々な病気が原因で、犬や猫の行動は変化します。
おかしいなと思ったら、獣医師の診察を受け、
他の病気が隠れていないか調べてもらうことも大切です。 -
統計
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認知機能不全に関する統計として、品種について、国内では日本犬が、海外ではヨークシャーテリアが多いという報告があります。
また、年齢による統計として、12才の約3割、16才の約7割が認知症を疑う徴候が認められたという報告があります。
罹患率は皆様が思っていたより高かったのではないでしょうか。
治療と経過
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認知機能不全は残念ながら進行性の疾患です。
放っておくとどんどん悪くなります。
また、完治させることはできません。
したがって、心身ともに犬と飼い主の負担を減らし、
病気の進行を遅らせることが治療目標となります。
治療方法は以下の3つに分けられます。 -
➀行動学的、環境的アプローチ
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○規則的な運動
筋肉を使うことにより、脳の循環血液量の増加を促します。
○散歩
視覚的、嗅覚的、知覚的な刺激、太陽光への暴露により、脳を刺激します。
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○おもちゃ
新しいおもちゃを使い、脳を活性化します。
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高齢犬も遊びやすい柔らか素材のボールなど♪
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○社交
新しい人や動物とふれあうことにより、社交的な刺激を与えます。
○新しいコマンド
新しい動作を覚えることにより、学習能力に刺激を与えます。
○昼は起きる。夜は眠る
昼に寝て、夜に起きてしまう子に関しては、日中に起きる習慣をつけ、
夜眠る前に運動をして疲れさせ睡眠を促すことにより、生活リズムを補正します。
○環境を改善する
床を滑りにくいものにする、ぶつかりやすい家具を置かないことにより、
ストレスを軽減し、事故を防ぎます。
ただし、大幅な模様替えはストレスを与えます。
特に視力が低下してしまった子の場合は、本人が記憶している家具の位置を頼りに
生活していることが多いです。 模様替えには注意しましょう。
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○トイレは頻繁に連れて行く
排泄問題は、頻繁にトイレに連れて行き、排泄を促すことで問題を減らします。
➁栄養
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○療法食
DHA,抗酸化剤、ミトコンドリア補因子などを含む食事です。
認知力、記憶力、活動性の向上を図ります。
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○不飽和脂肪酸
神経細胞の安定化、セロトニン（神経伝達物質）の作用を増強させます。
○メラトニン
睡眠〜覚醒サイクルの改善を図ります。
○カゼイン
ミルクを加水分解して得られる成分のため、安全性がとても高いです。
抗不安作用が望めます。
○メラトニン
睡眠〜覚醒サイクルの改善を図ります。
○抗酸化剤 （ビタミンC、フラボノイドなど）
フリーラジカル、βアミロイドなどに作用します。
認知力、記憶力、活動性の向上を図ります。
➂薬剤
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○塩酸セレギリン
アメリカで認知機能不全症の動物治療薬として認可されています。
○抗うつ剤
セロトニン再取り込み阻害により、抗不安作用が望めます。
○その他
オキサゾラム、ロラゼパム、ドネペジル塩酸塩、メマンチン塩酸塩など、 治療成果をあげている薬剤があります。 -
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いかがでしたでしょうか。
犬猫の認知症は、まだまだわからないことが多いのが現状です。
例えば、人間でみられる幻聴や幻覚を、犬猫で証明することは極めて困難です。
人間と犬猫、お互いにわからないことが多い病気ですが、
歩み寄り、穏やかな老後を過ごさせてあげるお手伝いができれば、
嬉しく思います。
