第44回 猫が高齢になったら
滝田雄磨 獣医師
猫と暮らしていると、いつのまにか高齢になっていて驚いてしまうというお話をよく聞きます。
犬と比べ、猫はのんびりとした性格の子が多く、行動に大きな変化が起こらないことが原因のひとつでしょう。
今回は、猫が高齢になったときの注意点、付き合い方についてご紹介したいと思います。
猫の寿命
近年、長寿の猫が増えてきており、20才を超える子もしばしば見かけるようになりました。
猫は生活環境により平均寿命が異なります。
家の中でのみ生活している猫は、約15才だと言われています。
一方、外で生活している地域猫は、7~8才とも言われています。
外で生活している方が、感染症や事故など、命の危険が多いことが寿命を縮めている原因でしょう。
特に子猫は、多くの子が感染症で命を落としています。
例えば、地域猫で広く蔓延している感染症、猫風邪です。
猫は視覚よりも嗅覚により、食欲が刺激されます。
そのため、猫風邪を引くと鼻がつまり、嗅覚の刺激がなくなり、大きく食欲が低下してしまいます。
食欲が低下すると栄養状態が悪化し、命を落とす危険が大きくなります。
ちなみに、あるデータでは、オス猫の平均寿命が14.3才、メス猫の平均寿命が15.2才と出ており、メス猫のほうがオス猫より寿命が長い傾向があります。 この点はわれわれ人間と同じですね。
猫の高齢
一般的に、寿命の8割を過ぎた猫を老猫と呼びます。
先述したように、猫の寿命は、その生活環境により大きく左右されます。
ただし、外で生活している地域猫における感染症や事故による平均寿命の短縮は、その老化とは関係ありませんので、家の中で生活している猫の寿命をもとに考えます。
すると、約12才をすぎると、老猫と呼ばれることになります。
猫の年齢を人間に例えると
猫の年齢換算方法には諸説ありますが、今回はそのなかの一つを紹介します。
18+(猫の年齢-1)×4=人間の年齢
これは、猫が1才のときに人間での18才となり、以降1年に4才ずつ年をとるという計算です。
この方法で考えると、12才の猫は
18+(12-1)×4=62
となり、人間でいう62才となります。
日本人の平均寿命がどんどん伸びているため、現代の62才の日本人は高齢と言うには早い気もしますね。
アメリカ猫医学会では、15才以上、人間で言う76才以上を老年期と分類しています。
老化のサイン
猫でも歳を重ねると、老化のサインが見られるようになります。
- 毛艶が悪くなる。
- 毛が減る。
- 毛づくろいの回数が減る。
- 白い毛が増える。
- 活動性が低下する。
- 高いところに登らなくなる。
- 歯石が増える。
- 歯肉が後退する。
- 歯が抜ける。
- 口臭が強くなる。
- 爪が分厚くなる。
- 爪をしまわなくなる。
- 皮膚の張力が落ちる。
- 目やにが増える。
- 飲水量、尿量が増える。
- 体重が減少する。
いくつかの兆候は、疾患からくるものもありますが、老化のサインとしても言えるでしょう。
これらのサインのうちいくつかは、猫の生活の質を落としてしまうこともあります。
それぞれの兆候ごとに、我々にできることを考えましょう。
活動性が低下する
元気や食欲はあるけど、あまり動かなくなった、ということがあります。
その場合、筋力の低下、もしくは関節疾患が隠れている可能性があります。
筋力が低下している場合は、適切な食事と運動が必要ですが、
運動をしなくなった他の疾患がないかを検査することも大切です。
関節疾患であった場合は、鎮痛消炎剤を使ったり、関節をサポートしてくれるサプリメントを使ったり、 関節によい栄養配分になっているフードを選択したりすることで、改善を図ることができます。
歯石、歯肉、口臭の問題
口腔トラブルが起きている場合です。
歳を重ねるごとに、歯石が蓄積し、歯肉炎、口内炎を起こし、口臭が悪化します。
歯石の蓄積に関しては、蓄積する前に定期的に歯石除去をすることである程度予防することができます。
ただし、歯石除去をするには、全身麻酔が必要です。
高齢になってからの全身麻酔は、麻酔のリスクが上昇します。
10才前くらいを目安に、一度歯石について動物病院で相談してみましょう。
爪が分厚くなる
高齢になると、爪とぎをあまりしなくなり、爪が分厚く長くなります。
本来、爪とぎをすると、爪の外側が剥がれます。
そのため、爪とぎをしなくなると長くなるだけではなく分厚くなってしまうのです。
爪が分厚くなると、爪を収納しづらくなり、怪我をする原因になります。
また、爪が収納できず、どんどん長くなると、カーブを描き、肉球に刺さってしまいます。
爪が肉球に刺さってしまうトラブルは、しばしば見かける怪我です。
高齢になったら爪にも気を配るようにしましょう。
爪切りだけでも動物病院を受診することができますので、相談してみましょう。
皮膚の張力が落ちる
これは特殊な病気ではない限り、体が脱水していることを示しています。
よく動物病院でやられる検査に、背中の皮を軽く捻りあげ、
元の位置に戻るまでの時間を調べるというものがあります。
この検査で、皮がもとに戻る時間が延長していると、体が脱水しているという判断になります。
人間もそうですが、猫も高齢になるだけで身体が脱水します。
特に猫の場合は、高齢になると腎臓病を患うことが多く、これにより脱水が起きていることがあります。
脱水が強くなると、眼が落ち窪み、そこにできた隙間が原因で目やにが増えることがあります。
脱水や目やになどの症状が認められたら、動物病院を受診するようにしましょう。
飲水量、尿量が増える
水を飲む量と尿量が顕著に増えることがあります。
飲水量、尿量が増える疾患といえば、まず挙がるのが糖尿病、腎臓病です。
特に高齢になってから徐々に症状が認められたら、腎臓病を強く疑います。
糖尿病、腎臓病ともに血液検査と尿検査が有効なので、尿を持参して動物病院を受診しましょう。
猫の採尿はしばしば困難ですが、トイレの砂を抜いてもトイレで用を足してくれる子もいます。
どうしても難しい場合は、動物病院で採尿処置をしてもらいましょう。
体重が減少する
高齢になると体重が減少します。
単に食が細くなり体重が減少することもありますが、原因に様々な疾患が隠れていることもあります。
腫瘍、糖尿病、腎臓病、甲状腺機能亢進症・・・
定期的に家で体重を測るようにし、体重低下が認められたら早めに動物病院を受診するようにしましょう。
病気の早期発見を
猫の高齢化、老化のサイン、疾患との関係について紹介しました。
猫の寿命が長くなるに連れ、腫瘍や腎臓病などの疾患が増えてきています。
病気を早期に発見することで、より長く楽しい時間を過ごすことが望めます。
高齢猫と暮らすようになったら、どんなところに注意すればよいのか、分からないことがあれば動物病院で相談してみましょう。