第28回 犬の咳
滝田雄磨 獣医師
-
猫と比べ、犬では咳をしている姿をよくみかけます。
犬の咳には様々な原因がありますが、
冬になり気温が下がってくると増える咳、
興奮したときだけする咳のほか、
重篤な疾患が原因で起こっている咳もあります。
-
犬の咳とは勢いよく空気を吐き出す運動ですが、
多くの場合、異物が呼吸器に入ってきた時の生体防御反応として起こります。空気の通り道である気管支は、常に粘液で湿っており、
繊毛と呼ばれる細かい毛によって異物を外に排出しようとはたらいています。ここに異物が侵入してきたり、炎症が起こったりすると、
粘液が増加し、痰として外に排出されます。犬が咳をしたあとに口をペロペロくちゃくちゃしている場合、
痰を飲み込んでいる可能性があります。
呼吸器官に細菌やウイルスの感染が起こると、咳をするようになります。
感染が原因で咳が起こっているとき、ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)と呼ばれます。
-
ケンネルコフの原因となる細菌やウイルスには、様々な種類がありますが、 なかでも主要な感染源として、 犬パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ(細菌)などがあげられます。
これらの感染源は、複数種類が同時に感染する(混合感染)ことがあり、その場合は、重症化する恐れがあります。
人間と同じく、犬の咳や風邪の原因となっている感染源を特定することは容易ではありません。
そのため、一般的にはその臨床症状からケンネルコフを疑い、治療を始めます。
全身状態が悪い場合は、二次的に肺炎を伴っている可能性があるため、
血液検査や肺野のレントゲン検査にて診断します。
-
感染源がなんであれ、二次的に細菌感染を起こすおそれもあるため、内服や注射で抗生剤を使用します。
また、呼吸器官に直接作用することができるネブライザーを使用することも効果的です。 ネブライザーとは、薬を霧状にし、直接吸い込んでもらう治療法です。 人間でも喘息などの呼吸器疾患で使われている医療機器です。
咳が重度であり、体力の消耗が著しいと判断された場合は、鎮咳薬の使用も検討します。
ただし、先述したとおり咳は生体防御反応であるため、できれば鎮めずに感染源を外に排出させたほうが効率的です。
気管支の炎症が著しく、呼吸困難になる恐れがあると考えられる場合は、気管支拡張薬も併用します。
-
高齢の犬では、咳の原因に心臓病が隠れていることがあります。
心臓病になると、心臓に負荷がかかり、心臓が徐々に大きく拡大していきます。
心臓のすぐ背側には、気管が通っています。
そのため、拡大した心臓は、気管支や気管分岐部を圧迫します。
圧迫された気管は潰れてしまい咳が誘発されます。
高齢になってから咳が出始めた犬の場合、
心臓病を疑い、聴診や胸部レントゲンによる検査が勧められます。
-
小型犬では、咳の原因に気管虚脱があることがあります。
気管虚脱とは、なんらかの原因で気管軟骨が柔らかいために、
気管が潰れてしまう疾患です。気管が潰れてしまうと、ゼーゼー、ガーガーといったアヒルの鳴き声のような咳がでます。
気管虚脱の原因はハッキリとは分かっていないため、体質であると言われることもあるでしょう。
-
気管虚脱が疑われた場合は、なるべく気管を圧迫してはいけません。
それには、首輪をやめ、胴輪を使うようにします。
気管虚脱には残念ながら特効薬がありません。
炎症を伴う場合は消炎剤を使用します。
必ず奏功するわけではありませんが、気管支拡張剤を使うと症状が和らぐこともあります。
肥満である場合は、
より一層気管を圧迫して押しつぶしてしまう恐れがあるので、減量が必要です。
内科的なコントロールが難しい場合は、気管が潰れないようにステントと呼ばれるものを外科的に気管内に設置する治療を検討します。
-
ペット気管に負担をかけない胴輪 体に優しいスポーツタイプの胴輪や、
ベスト型で高齢犬にも優しい作りの胴輪など♪ 商品はこちら
-
現在では広く予防薬が使われているフィラリア症。
フィラリアに感染すると、その虫体は心臓〜肺動脈に寄生し、
咳を誘発します。慢性的な咳、元気がない、運動を嫌がる、
お腹が膨らんでいるなどの症状が犬に認められる場合は、
フィラリア症の検査が勧められます。
食べたものや吐き戻したものが気管に入ってしまい、
咳をしている場合があります。
健康な犬であれば、軽度の誤嚥は咳をすることで治ります。
しかし、高齢犬であったり免疫力が低下したりしている犬の場合は、
誤嚥から感染をともなう激しい肺炎へと進行してしまうおそれがあります。
犬が嘔吐をしたあとに急に激しい咳をし始め、舌の色が青く変色した場合は、
誤嚥による呼吸困難に陥っている恐れがあります。
その場合は、最悪命を落とすこともあるため、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
-
また、なんらかの疾患で意識が低下している状態で犬が吐き戻しをした場合は、吐き戻したものを誤嚥しやすくなります。
そのようなときは、焦らずに犬の頭を低くし、ハンカチなどで口の中の吐瀉物を取り除きます。
ティッシュなどを使うと、それをまた誤嚥してしまう恐れがあるため注意が必要です。
犬の肺に腫瘍ができてしまったときにも咳がでます。
肺の腫瘍が疑われた場合は、肺野のレントゲン検査で診断します。
肺は他の臓器の腫瘍が転移しやすい場所でもあります。
肺に影がみつかった場合は、身体の他の部位にも腫瘍がないか精査する必要があります。
-
犬の咳の原因となる疾患について紹介しました。
一時的な軽い咳であることもあれば、
重篤な疾患が原因で起きている可能性もあります。
特に急激な咳、全身状態が悪い状態での咳、
高齢になってからの咳が認められたら、
念のため早めに動物病院を受診するようにしましょう。