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中国の武漢で初めての感染者が報告された、新型コロナウイルスSARS-CoV-2。 その感染の拡大はすさまじく、日本国内でも政府から全国の小中高学校の休校が要請される、 大規模なイベントの中止、公園でのお花見の自粛など、私たちの生活に大きな影響を与えています。
新型コロナウイルスとはどういったものなのか。
感染経路は。予防法は。症状は。治療法は。犬猫に感染するのか。
感染症に対抗するためには、正しい情報を得ることが大切です。
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新型コロナウイルスとは、その名の通り、コロナウイルス科に分類されるウイルスで、新しく確認されたウイルスです。
ウイルス名はSARS-CoV-2。感染症名はCOVID-19。
コロナウイルスとは、その形状が太陽に似ていること、もしくは王冠に似ていることから付けられた名称です。
コロナウイルス
人間に感染するコロナウイルスは、新型を含め、現在7種類が確認されています。
その中には、過去に話題となったSARSやMERSが含まれています。
SARSの原因ウイルス名はSARS-CoV。MERSの原因ウイルス名はMERS-CoVです。
残りのコロナウイルス5種は、人間、Humanの頭文字をとってHCoV(HKU1,OC43,229E,NL63)の名称が付けられています。CoVは、Corona Virusの略です。
新型コロナウイルスの名称からも分かるように、
新型コロナウイルスとSARSコロナウイルスは同じSARS関連コロナウイルスに分類されます。
SARS関連コロナウイルスだけでも、ほかに数百種類があると言われていますが、人間への感染が確認されているのはこの2種類です。
SARSは重症急性呼吸器症候群(Severe acute respiratory syndrome)
MERSは中東呼吸器症候群(Middle East respiratoriy syndrome)を略した名称です。
それぞれ、2002年、2012年に確認され、大規模感染を引き起こしました。
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一方、HCoVはニュースにこそならないものの、
実はとても身近な感染症です。
日常的に罹患する、
一般的な風邪の原因の10〜15%はHCoVと言われています。
ただし、重症化することは少なく、
ほとんどの場合軽症でおさまります。
犬猫と新型コロナウイルス
犬や猫が新型コロナウイルスに感染するのかという質問をよく受けます。
まだわからないことが多い新型コロナウイルスですが、結論から言うと、現状では犬猫が感染することはありません。
正確に言うと、犬猫が感染したという報告がありません。※
一部の報道で、香港の新型コロナウイルス感染者が飼育していた犬の鼻汁から、新型コロナウイルスの弱い陽性反応が出たと言われています。
ここで注意していただきたいのが、新型コロナウイルスが陽性であることと、感染していることはイコールではないということです。
犬に限らず、地面を検査したとしても、そこに新型コロナウイルスが一定数以上いれば、検査結果は陽性となるでしょう。 つまり、弱い陽性結果を出した犬はいたが、その犬が感染していることは確認されていません。 あくまでも現状ですが、犬猫が新型コロナウイルスに感染する心配はいりません。
また、数多く存在するコロナウイルス科のウイルスは、種特異性が高く、種の壁を超えてほかの動物に感染することはほとんどないと言われています。
※香港政府が、感染者が飼育していた犬から低レベルのコロナウイルスの感染を確認したという発表をしましたが、 犬の口や鼻に付着したウイルスを検出した可能性があり、香港政府も「現時点でペットがウイルスを媒介するというデータはない」と強調しており、厚生労働省も現在はペットからの感染はないとしています(3月6日時点)。
犬に感染するコロナウイルス
新型コロナウイルスに感染しなくても、犬が感染するコロナウイルスは存在します。
犬が感染するコロナウイルスは3種類あります。
犬コロナウイルス2種(CCoV、CCoV2-CB/05)、犬呼吸器コロナウイルス1種(CRCoV)です。
CCoV2-CB/05は犬コロナウイルスの変異株として考えられており、重症化する傾向があります。
犬を意味するcanineから、canine corona virusを略してCCoVと呼びます。
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犬コロナウイルスに感染すると、犬コロナウイルス腸炎を発症し、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こします。
免疫力が強い成犬では症状が出ないことが多い疾患ですが、幼犬や基礎疾患をもつ犬、高齢の犬など免疫力が弱っている場合は重症化する恐れがあるため注意が必要です。 感染犬の排泄物や吐物にウイルスが含まれ、そこから接触感染します。 特効薬はなく、点滴などの対症療法で治療します。
犬コロナウイルス
犬呼吸器コロナウイルス
犬呼吸器コロナウイルスに感染すると、咳などの呼吸器症状、発熱などが見られます。
犬呼吸器コロナウイルスを検出するには時間がかかることと、治療法に大きな差が見られないため、ウイルス検査をすることは多くありません。
また、複数の病原体が原因で発症していることも多いため、ひとくくりに犬伝染性気管気管支炎、俗にケンネルコフと呼ばれます。
犬呼吸器コロナウイルスは飛沫物によって感染します。特効薬はなく、ネブライザー、点滴などの対症療法で治療します。
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猫コロナウイルスの感染症の危険性は低いですが、まれに遺伝子変異を起こすことがあります。
遺伝子変異を起こしたコロナウイルスの感染力は強くはないと考えられていますが、幼猫、慢性的なストレスや基礎疾患により免疫力が低い猫で感染が起こります。
この遺伝子変異を起こした猫コロナウイルスによる感染症は、猫伝染性腹膜炎(FIP)と呼ばれます。 -
まだ若い猫で抗生剤に反応がない発熱が続いている時はこの疾患が疑われます。
FIPの恐ろしいところは、治療法がなく、基本的には発症すると致死率が100%であることです。
ワクチンもないため、なるべく猫にストレスをかけずに高い免疫力を維持してもらうことでしか予防ができません。
飼い主だけでなく、獣医を悩ませる辛い疾患のひとつです。
猫に感染するコロナウイルス
猫が感染するコロナウイルスは、猫を意味するfelineをつけて猫コロナウイルス(FCoV)と呼ばれます。
猫コロナウイルスに感染すると、腸炎を起こし、下痢などの消化器症状がみられることがあります。
ただし、その毒性は弱く、無症状の猫がほとんどです。家で飼育している猫を含め、多くの猫の腸管内に存在します。
猫伝染性腹膜炎は血管炎を起こしますが、その病変からwet typeとdry typeに分けられます。
Wet type では、腹水や胸水が貯留するのに対し、dry type では、腹腔内などに結節が形成されます。
いずれのtypeでも、持続的な発熱が起こります。
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犬猫への感染は現在のところないとされていますが、厚生労働省からの今後の情報の更新を確認する必要があります。
猫のコロナウイルスによるFIPでもそうですが、治療法がない疾患の場合、自身の免疫力が唯一の治療法です。
うがい手洗い換気などで病原体との接触を避けること。栄養、睡眠、運動、笑顔で免疫力を高めることが大切です。
大変な時期ではありますが、正しい知識を得て、互いに助け合いながらこの危機を乗り切りましょう。
コロナウイルスと犬猫
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、コロナウイルスの基礎知識、犬猫が感染するコロナウイルスについて紹介しました。
新型コロナウイルスは不透明なことが多く、今後の見通しもはっきりしません。