第11回 冬の血尿
滝田雄磨 獣医師
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冬に多い病気 〜血尿〜
冬になり、ぐっと冷え込む日が続く、今日この頃。
周りに体調を崩されている方が増えているのではないでしょうか。
犬猫たちにとっても、冬は体調を崩しやすい季節です。。
そこで、冬に多い犬猫の病気について紹介したいと思います。
今回は、尿に血液が混じる症状、血尿についてお話します。
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冬と泌尿器
血尿が冬に多いというのは、あまり知られていないかもしれません。
そもそも血尿に限らず、冬になると泌尿器には負担がかかります。
その理由には、以下のようなものが挙げられます。
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●排尿量の減少(尿の濃縮)
外でしか排尿をしない犬の場合、
寒い冬になると外に出るのが億劫になり、排尿の頻度がぐっと減ってしまいます。
雪が積もった日には飼い主も億劫になり、散歩が減ってさらに排尿量は減ってしまいます。
こういったことを防ぐため、家の中でも排尿排便ができるよう、
トイレのトレーニングをしっかりしておきたいところです。
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また、気温が低下すると、多くの犬猫は運動量が減り、
飲水量が減ります。
飲水量が減ると、それに従って排尿の量も減っていきます。
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●血圧の上昇
寒くなると、体温の低下を防ぐために血管が収縮します。
血管が収縮すると、血圧が上昇します。
血圧が上昇すると、腎臓や心臓の負担が増え、病気を発症、悪化させてしまいます。
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●尿路結石
尿路(腎臓〜尿管〜膀胱〜尿道)に石ができる病気を尿路結石症といいます。
先述したとおり、寒い冬は尿が濃縮され、
排尿頻度が減った結果、細菌感染が起こりやすくなります。
尿が濃縮されると、尿路結石の原因となるミネラル成分も濃縮されます。
すると尿の中にミネラル成分の結晶が形成され、さらには結石へと成長します。
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また、細菌感染を起こすと、細菌のはたらきにより、尿のpHがアルカリ性に傾きます。
尿のpHがアルカリ性にかたむくと、さらに結晶、結石ができやすくなります。
結石ができると、腎臓や膀胱を傷つけ、炎症、出血を引き起こします。
これにより膀胱炎、血尿という症状が現れます。
炎症、出血をともなうと、細菌感染はさらに悪化します。
尿路結石は基本的に腎臓もしくは膀胱で形成されますが、
尿の流れに乗って、尿管、尿道に移動することもあります。
結石がそのまま通過してくれればよいのですが、管の途中で詰まってしまうこともあります。
こうなると、尿が通過できない尿路閉塞となり、
腎機能の重篤な障害をもたらす緊急疾患となります。
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尿路結石ができてしまったら…
尿路結石ができてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
実は、尿路結石にも種類があります。
結石の成分によって分類されるのですが、複数の成分を含む結石も存在します。
結石の種類によっては、治療で溶解することができます。
残念ながら溶解できない結石であった場合は、外科的な摘出が必要です。
では、溶解できる結石であった場合、どのような治療法があるのでしょうか。
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【食事治療】
ひと昔前では、現在より高い頻度で尿路結石症が発症していました。
その原因のひとつとして、ペットフードのクオリティが考えられています。
現在ではより良いペットフードが開発されており、
そもそも尿路結石はできにくくなっています。
それでもやはり、尿路結石を発症してしまうことがあります。
そこで、さらに尿路結石を作りにくい、 もしくは溶解するためのフードが開発されています。
これらのフードには、次のような特徴があります。
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・尿路結石の成分を制限
尿路結石の主成分となるミネラルを制限しています。
尿路結石の材料がなくなるため、形成されにくくなります。
・pHのコントロール
主な溶解できるタイプの結石は、尿のpHがアルカリ性に傾くと形成されます。
逆に尿が酸性に傾くと、溶解することができます。
・飲水量を増やす
飲水量が少ないと尿が濃縮され、結石が形成されやすくなります。
これを解消するために、飲水量が増えるように成分をコントロールしたフードが開発されています。
飲水量だけでも増やす工夫をします。
フードをウェットフードに変えて水分摂取量をふやしたり、
こまめに新鮮な水に変えたり、水に少量の肉汁で香りをつけたり、器を変えてみたりします。
ドライフードの方が、食べた後にのどが渇いてしっかり水を飲みそうな気もしますが、
食事に含まれる水分とその後の飲水量の合計を比較してみると、
ウェットフードの方が摂取できている水分量は多いという実験データがあります。
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【感染のコントロール】
尿路に細菌が感染すると、細菌のはたらきにより、尿のpHがアルカリ性に傾きます。
先述したとおり、アルカリ性の尿は結石ができやすい環境です。
そこで、抗生剤による治療をおこない、 感染をコントロールする必要があります。
また、尿路結石が存在すると、尿路の細菌感染が起こりやすくなります。
そのため、尿検査で細菌感染が認められなかったとしても、
細菌感染には十分に警戒しておく必要があります。
こういったフードを食べてくれない犬猫の場合、
飲水量だけでも増やす工夫をします。
フードをウェットフードに変えて水分摂取量をふやしたり、
こまめに新鮮な水に変えたり、水に少量の肉汁で香りをつけたり、器を変えてみたりします。
ドライフードの方が、食べた後にのどが渇いてしっかり水を飲みそうな気もしますが、
食事に含まれる水分とその後の飲水量の合計を比較してみると、
ウェットフードの方が摂取できている水分量は多いという実験データがあります。
【尿酸化剤】
尿のpHを酸性に傾ける薬、サプリメントがあります。 まずは療法食からの治療を試みますが、
それでもうまくコントロールできない場合によく選択されます。
これらの治療が奏功し、尿路結石が溶解している場合、ひとつ注意点があります。
溶解の過程で結石の大きさが変わり、尿路に詰まってしまうことがあるのです。
治療の途中で排尿困難などの異変を感じたら、すぐに動物病院に相談しましょう。
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血尿が認められたら、結石の検査を
血尿の原因の多くは尿路結石、膀胱炎です。
特に尿路結石は緊急疾患へ発展し、
数日で命を落とすおそれさえあります。
冬になり、発症リスクが高まる尿石症。
犬猫の排尿の異変にすばやく気づけるよう、日頃から注意して観察してあげましょう。